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憧れのおねえさんともう一度

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5年前まで隣に住んでいたおねえさんに、僕はずっと憧れていた。勉強を教わったり、近所の公園で遊んでもらったり、幼い心は次第に彼女への恋心で満たされていった。 けれど、大学卒業と同時に彼女は地元を離れ、僕たちは自然に疎遠になった。連絡先も知らず、気持ちを伝えることもないまま、ただ淡い想いだけが胸に残されていた。 もう、誰かと幸せに暮らしているのかもしれない そう考えるだけで、胸が締め付けられるような思いに囚われる。そもそも、彼女はただの弟分としてしか見ていない可能性の方がずっと高い。そうやって何度あきらめようとしても、彼女が僕の中から消えることは一度たりとも無かった。 時がたち、大学進学で都会に出ることになった僕にある日親が言った。 「おねえさん、一緒に住まないかって」 両親は今も彼女の家庭と交流があり、そんな提案をしてくれた。この機会を逃すわけにはいかない。今度こそ自分の気持ちを伝えよう。そう決意して彼女の住むマンションに向かった。 マンションの近くに差し掛かると、重そうなビニール袋を下げたふくよかな女性が立ち尽くしているのが見えた。もう初春だというのに額から汗が滲み、袋の中にはスナック菓子やアイスクリームがぎっしり詰め込まれていた。肩で息をしながら、ゆっくりとその場で呼吸を整えている。 僕は少し心配になり、つい声をかけてしまった。 「大丈夫ですか?よかったら荷物を持ちますよ」 その女性はふと僕を見つめ、少し不思議そうに笑った。そして、ぽつりと囁くように言った。 「もしかして……僕くん?」 驚きと戸惑いが同時に湧き上がり、僕は一瞬息が止まった。「僕くん」その呼び方で呼ぶ人なんて、思い当たるのはただ一人だけだ。 「私だよ、おねえさんだよ」 その言葉に、僕は言葉を失った。あの頃の面影はすっかり消え、別人のように見える。けれども、あの頃のままの温かい感情が胸の奥で波打っているのがわかった。ずっとこの人に会いたかった。昔からどれだけ変わろうと、僕にとってはおねえさんに変わりわない。 彼女の荷物を引き受けて一緒に歩き出し、玄関にたどり着く。すると、彼女は疲れたように壁に手をつき、荒い息を整え始めた。 「ごめんね、少し動いただけでこうなっちゃって……」 その言葉に宿る悲しみが、僕の胸を締め付ける。溢れそうになる感情を抑えつつ、思わず口を開いた。 「どうして……そんなに太っちゃったの?」 彼女は言いよどむようにゆっくりと目を伏せた。沈黙が流れる中、彼女はぽつりぽつりと自分の苦しみを語り始めた。 「仕事がね、すごく大変で、職場の付き合いも増えていって……気づいたら、こうなっちゃったの」 仕事の付き合いや差し入れの間食、夜遅くまで続く飲み会、そして何より、楽しみや趣味がないことで食べ物に頼る日々。そんな彼女の話に、僕はただ耳を傾けた。 「ごめんね……こんな姿になっちゃって。幻滅、したでしょ?」 その言葉に、僕はこらえきれなくなった。 「幻滅なんて、するわけないじゃないか!」 思わず口走ってしまった言葉に、僕自身も驚いた。でも、言わずにはいられなかった。 「ずっと……ずっと好きだったんだ。子供の頃から、今も変わらず、ずっと」 彼女の目が大きく見開かれ、僕をじっと見つめる。その視線には、どこか驚きと戸惑いが入り混じっていた。そして、彼女は震える声で呟いた。 「……私、ずっと諦めようと思ってたの。きっと、年上の女性に対するただの憧れで一過性の想いなんだって、すぐに私のことなんて忘れてしまうんだろうなって……でも……本当は忘れたくなんてなかった。忘れられなかったの」 彼女は深く息をつき、遠くを見るように視線を落とした。その瞳には、まるで閉じ込めていた年月が溶け出していくような悲しみが滲んでいた。胸の奥底で押し殺してきた感情が今、ようやく解き放たれようとしている。 「私、君がそばにいなくなってから、自分がどれだけ君に支えられてたか気づいたの。いつも君との思い出だけが、ずっと心の中で光り続けてた……」 その言葉に込められた真実が、僕の心に深く響いた。彼女がどれほど孤独を抱え、必死に歩んできたのかが、痛いほど伝わってくる。 「もう、頑張らなくていいんだよ」 その一言に、彼女は抑えきれずに泣き崩れた。涙が頬を伝い、肩が震えている。 「こんな私でいいの?」 これまでの不安と迷いがすべて込められた問いかけ。だが、僕は迷わず彼女の肩をぎゅっと抱きしめて、深く頷いた。 「君がどう変わっても、僕は変わらない。今も、昔も」 その言葉に彼女は再び泣き崩れ、僕にしがみつくように腕を回した。僕たちの間にあった遠い距離も、迷いも、不安もすべて消え去り、ただ静かな安らぎだけが残った。

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